「中南米の日本語教育について」(富田博義)

                  

 <筆者プロフィール>

  富田 博義 (Tomita Hiroyoshi)  サンパウロ在住
・1959年 早稲田大学第一法学部入学 ・1962年 同大学海外移住研究会幹事長 ・1962年~1963年 日本学生海外移住連盟委員長(第9期)・1963年同大学同学部卒業、渡伯 ・1964年~2004年 富田商会、Las Brisas商会経営(雑貨輸入販売等) ・2005年 来日(デカセギの実態調査と翻訳・通訳等支援活動) ・2009年 離日 ・2010年 特定非営利活動法人NGOブラジル人労働者支援センター支援 ・2011年 同センター顧問就任 ・2012年4月 非営利法人日伯教育機構理事就任

                            

 

 「魚を釣るなら魚の多い所で釣れ」といわれるが7月下旬にサンパウロエキスポセンターで行われた県連主催の第18回県連日本祭りの15万人という人出をみると毎度ながらその魚の多さに驚くばかりだ。
日本文化に誇り持つ日系と日本に親愛の情を持つガイジンがこれほど多くいるのを目の当たりにすると我々日系人のこの国での重みも大きなものになったものだと嬉しくなる。この祭りの目玉イベントの各県自慢料理の屋台の手伝いや会場案内等に700人近くの若いボランチアが日本的奉仕精神で手伝う姿を見ると日系社会の将来も明るいし潜在的な日本語教育の地盤の存在を感じる。
同じような「日本祭り」がブラジル各地で開かれ5~7万人を集めるのもある。
これを見ると非日系人の日本語学習者の増加となって現れてきているのが分かる。反面日系人の日本語学習者が減っているといわれるのは本家の日本に勢いがないことも影響しているので2,3、4世が競って日本語を学ぼうとするモチベーションとなるように日本の大いなる躍進を期待したい。


外国語として難しい日本語を学ぶ利点としての日本企業への就職とか職業としての日本語教師になる道等将来につながるようになってほしいものだ。

孫に日本語を教えるにあたり日本語教育の現状を知りたいとサンパウロ圏内の日系人経営の公認ブラジル学校(コレジオ)の内の6校で教科に日本語を教えている学校を支援する日伯教育機構というグループに入れてもらうことにした。そこでは各校もち回りで授業を見学し日本語授業方法を発表し互いにそれを参考にしたり、加盟校の日本語教師の要望を聞いて日本とつなげる、例えば現代の生きた日本語に触れたいと希望があれば日本でのホームステイを計画したりしたがこれは旅費が私費なので博報堂が行う無料の「海外児童日本体験プログラム」への応募を加盟各校に勧めることになった。今年一加盟校が合格した。

一方ブラジルの日本語教育の総本山は日本語センターという民間組織で故谷兄も理事長をしていたし私も評議員をしている。今年30周年を迎えるこの組織は国際交流基金とJICAが3割以上の予算を援助し残りを400人の日本語教師も含む個人会員や情けなやたったの16社!の法人会員で賄っている。600の企業が進出してるというのに。全伯2万人の日本語学習者を教える3百余の学校(公立、私塾を含めて)の1千2百人の日本語教師の養成、育成や学習者への支援、教材作製等の多くの活動を行っていて8人の有給専従員が年間1億円近くの予算で中南米の日本語教育の機関車として活動している。

 

中南米諸国から教師や学習者を集めて開くセミナーや交流会や学習者支援事業、作品コンクール、スピーチコンテストなど多岐にわたる絶え間ない活動で優れた日本語教師を育てて日本語の伝承と普及につとめるところでその力強い活動ぶりはまさにプロであり老1世にとっては非常に嬉しく頼もしい存在である。

第58回全伯日本語教師研修会(夏冬の2回開かれ今回は冬期分)が2015年7月半ばの3日間に100人近くの中南米の教師、学校経営者を集めて開催された。セミナーは日本から来た日本語教育のプロや国際交流基金の専門家が講義をする高レベルのもので驚く。私はどんな人が日本語教師をしているのかが見たくて参加した。溌剌とした多くの2,3世の女性日本語教師達の日本語教育へのひた向きな姿を見て大いに感動し日本語教育の将来を大変心強く思った。

 

近頃日本語学習者数の減少と聞くが発表を聞いた限りではトータルの学習者の数はむしろ増えて前述のように非日系人の学習者の増加が日系人の下落を補っていることが分かった。日系人学習者の下落の理由は幾つかあげられた。晩婚化による少子化、習い事の多様化、日系コレジオをはじめ全日制の学校が増えて午後の選択科目時間に日本語を教えるところが出てきたりブラジル公認校(小中学校)で日本語、日本文化の教育を行うようになった所もでてきて日本語教師経営の日本語教室の生徒が減り経営が圧迫される所が出てきたことからいわれるようだ。一世の教師が老齢で塾を閉めた。日系人の非集団化と3,4世のブラジル人化(これが大きい)、厳しい進学競争下での日本語への優先順位の下落等が挙げられた。社会的に日系人が重きをなしてきたのであえて日本語にこだわらなくなったともいえる。とはいえ昨日の邦字紙にJICAの日系社会次世代育成研修生高校生の部募集広告が出たがこういうことも日本語を学ぶ動機と励ましになりよろこばしいことだ。

また非日系人の増加はマナウス市内の日本語学校の680人の生徒の8割が非日系という例にあるように多くは税制特典のあるマナウスに工場を持つ日本企業に働く若者だという。現在自動車業界は販売不振で各社大量人員整理をしている中でトヨタが500人もの社員募集をしているニュースは感動的で日本ファンを増やすだろう。またマンガ、太鼓、武道、ヨサコイソウラン等で日本語日本文化に接して学び始める非日系人がふえているのも喜ばしい。

 

英、独、仏、西国等の政府と企業が語学に力を入れる姿勢は半端じゃない。「文化に対する投資は国家に返ってくる」という思想はかつての植民地経営の経験からかもしれないが国家に対する哲学でもあり残念ながら日本には少ない。

多くの日系人非日系人日本語教師が日本と日本語、日本文化普及の為に薄給もいとわず使命を持って各地で頑張っている姿を近隣諸国とブラジル主要都市の日本語学校の活躍ぶりでご覧ください。言葉の裏に文化ありを期待しましょう。

 

ペルー;日系人9万人、日本語学校数29、生徒数4705人、教師数96人

アルゼンチン;日系人5万人、学校数21生徒数2000人、教師数120人

ボリビア;日系人5000人、学校数5生徒数140人、教師数7人

パラグアイ;日系人7200人、学校数10生徒数150人、教師数13人

 

ブラジル;日系人160万人、学校数325生徒数2万人、教師数1132人

 マナウス;学校数5校、生徒数638人、教師数23人

 ブラジリア;学校数5校、生徒数120人、教師数14人

 ベロ・オリゾンテ;学校数5校、 生徒数96人、教師10人

 クリチーバ;学校数11校、生徒数120人、教師数人16人

 リオ・デ・ジャネイロ;学校数13校、生徒数257人、教師数29人

 サンパウロ;学校数72、生徒数5100人、教師数239人

 ポルトアレグレ;学校数12校、生徒数105人、教師数16人

 

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