大きく変わる都市人口収支

 私はかつて日系社会のメディアで働き、日系の方々と親しくさせて頂いておりました。その影響でしょうか。日系社会から遠く離れたいまでも日系人の方との縁が出来やすい運命にあるようです。

  それは1年前、ナタル市で借りるアパートを決め、契約書にサインする際のことでした。持ち主の方の名前を見て驚きました。普段は日系の方とすれ違うことがない町なのですが、そこで目にしたのは日系女性の名前でした。それだけではありません。契約後、物件に出向いて去るときです。日系男性とおぼしき方がすれ違いざまにアパートに入っていきました。「さては大家さんのご家族かな」と思い、声をかけてみれば、知り合いでないことが明らかに。アジア系人種の顔はほとんど確認できないこの人口80万の都市において私は移り住む前から2人の日系の方との縁が出来てしまったわけです。

  さてナタル市に引っ越した後、日本の雑貨などを商う店を街中で見つけたので覗いて見ました。店主はアマゾンから10数年前に転住された2世の女性の方でした。昔取った杵柄で当地の日系人事情をうかがっていると、日系コミュニティは存在しないものの、サンパウロ市など南部の大都市から引っ越してくる日系の方がちらほら目立つようになったとのことでした。車の渋滞もないうえ年間通じて「300日が晴れ」という気候。都会にはない住みやすさに惹かれて職を求めてくる若い世代の方が少なくないようです。

  そうした現象を裏付ける記事が先日の全国紙に掲載されていました。2004年から2009年にかけての人口移動調査の結果、リオグランジノルテ州では流出者より流入者の数が多い「収支プラス」の状況で、その差2.3万人はブラジル北東部9州でトップの数字でした。
今回の調査で明らかになったことは「20世紀のブラジル」を知っている人には意外な事実でした。貧しい北東部から豊かな南部の大都市へ出稼ぎ等のために移り住むという従来の構図は崩れ、北東部から南部への移住者は減少の一途を辿っています。1995年から2000年には96万人を数えましたが、2004年から2009年は44万人に。逆にサンパウロ州やリオデジャネイロ州では既に流出者が流入者を上回り、収支は「大幅マイナス」状況です。

  記事によると、最近急成長しているのは人口50万までの中小都市だそうです。大都市から就職・起業のチャンスや生活の質を求めて移り住む人たちの存在がその背景にあると見られています。サンパウロ市とリオデジャネイロ市は最近の「世界都市生活費ランキング」で欧州の主要都市を押さえてそれぞれ10位、12位に位置付けました。サンパウロ市は名古屋市よりも生活コストが上です。
かつてこの国で暮らした方々が懐かしむ従来のブラジル像は大きく変容しつつあります。

リオグランジドノルテ州ナタル市にて 2011年7月20日 小林大祐

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