悩めるギリシャはどこへ行く(その2)

『ギリシャの財政危機』                            
  昨年の5月、ギリシャの財政危機に端を発した欧州通貨ユーロ急落のニュースが世界を駆け巡った。あれから1年が経ち、再びユーロ危機がささやかれ始めている。
一年前、IMF(国際通貨基金)、欧州委員会、欧州中央銀行の3者によって作成されたギリシャ救済計画は、ギリシャにとっては極めて厳しい財政改革の実施が条件とされた。
しかし、年金制度の改革、大幅な税率の引き上げが、不況や失業率の上昇等で、国民の不満を買い、改革の実施が遅れ、その効果が表れていない。

 ギリシャ政府は2014年までに財政赤字を対GDP比3%以下に抑える計画を掲げているが、そのベースとなる政府の統計数字に対し、EU統計局から疑問符が出され、先月、統計局は改正値を発表した。2009年の財政赤字は、当初の対GDP比13.6%から15.4%に修正された。実際には更に悪化していた事が判明し、GDPの3%以内に抑えるとの達成目標は、一段と遠のいてしまった。

 

 こうした状況から、ギリシャの国債返済は債務不履行に至るのは避けがたいとの見方が出始めている。更にギリシャの国債を保有する多くの欧州銀行の資産が損なわれる可能性が高まり、欧州金融市場に及ぼす影響が懸念されている。

 

 

 今年一月にエストニアがユーロ圏に加わり、拡大を続けるEUだが、財政危機は収まるどころか拡がりつつあるのが実状である。昨年11月、アイルランドが財政危機に陥入り、EUとの間で資金支援を受けるための事前協議に入ったと報道されている。財政危機はギリシャ、ポルトガル、スペイン等南欧の国に集中していたが、北欧の国にも拡がって来た。

 増加する財政悪化国にEUはどの様な対応をするのか、世界の注目が集まっている。
欧州の主要国では財政悪化国の支援に対する世論が厳しさを増しており、フィンランドでは支援に反対する政党が大幅に議席を増やしている。支援の中心的役割を果しているドイツでもメルケル首相への風当たりが強まっている。「欧州の平和を保つ為、単なる通貨を超えた政治プロジェクト」と位置付る首相の理念がいつまで維持できるか。

問われる政府、国民の覚悟 

 当事者のギリシャ政府及び国民はこの問題をどの様に捉えているのだろうか。
政府は政策のうらずけの無い目標値を並べ、正確な実績を公表しない。国民は政府の無力に不満を募らせ、責任を糾弾するばかり。そもそもギリシャの債務は、既に実力で返済が可能な限度を大幅に越えている。これはギリシャ有史以来の危機であり、国難であると認識すべきだが、どうも疑わしい。更に悪い事に、恐れていた動きが出始めた。耐乏生活に嫌気がさしたのか、EUからの脱退を叫ぶ声が政治家からも、国民からも聞こえ始めている。
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 5月6日、独誌シュピーゲルはドイツ政府の情報筋の話として、ギリシャがユーロ圏から離脱し、自国通貨を再導入する事を検討していると報じた。ギリシャ政府は打ち消しているが、火の無いところに煙なしである。EUの財政支援無しにギリシャが生き延びる道はない。財政支援を受けている間に改革の効果を示さないと、やがて見放される事態が来ないとも限らない。ここは不退転の気構えで臨まなければならない。

 有史以来の国難と言えば、時を同じくして東日本大震災に遭遇した日本も復興財源の創出が緊急の課題となっている。この復興財源として、イタリア在住の作家、塩野七生氏は文芸春秋5月号のコラム欄で「日本人へ 今こそ意地を見せる時」と題してウルトラCの財源捻出策を提言している。 かつてイタリアはユーロ通貨発足時に、国の借金がかさみ、やはり財政赤字が膨らんで、条件を満たせず、ドイツ等から反対された。
しかし、この時イタリアは禁じ手の驚くべき荒業でその難局を乗り越えた。

 イタリア政府はイタリアにある全ての銀行口座から預金の0.05%を徴収した。それも期日を指定しての実施であった。個人の財産に国家が手をつけると言う、いわば禁じ手であるが、イタリア人も本気になると考えられない事をするものだ、とあきれると同時にその発想力に感心する。塩野氏は日本も復興財源の為にこれ位の荒業を考えても良いのでは、と提言されている。

人災とも言うべきギリシャの財政危機と天災による東日本大震災を同列に論じる事は不
謹慎かもしれない。むしろギリシャにこそ、その位の荒業を実施してでも乗り切る覚悟が政府も国民も必要ではないか。古代ギリシャはピタゴラス、ソクラテス、プラトン、アりストテレス等多くの哲学者を輩出した。現代のギリシャ人も先人のDNAを受継いでいるのか、総じて議論好きである。ワインを片手に夜を徹して議論する光景をしばしば見かけた。
 徹底的に議論するのは良いが、もはや議論に費やす時間は無い。議論の間にも赤字は容赦なく増え続け、刻々と危機が迫っているのである。
「ギリシャ人へ、今こそ意地を見せるとき」である。  ( 2011.6.1 )

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