青年海外協力隊員の活用を

 筆者: 眞砂 睦

 

  独立行政法人国際協力機構(JICA)が派遣する青年海外協力隊の累計帰国者数が3万2千人を突破した。うち、和歌山県出身者は169人。世界の80を越す途上国や新興国で2年間の活動を終えて帰国した人々だ。彼らは、養殖・植林・野菜栽培・村落開発・稲作・家畜飼育・栄養指導・感染症対策・助産・養護・環境教育・PC指導・日本語や理数科教育・小学校教育・自動車整備・金型加工・井戸掘り・木工・服飾・柔道等のスポーツなど100を越す職種で、各自が持っている技能を現地の人々に伝授するために汗を流してきた。草の根国際協力のボランテイア、20歳から39歳までの日本版平和部隊の青年たちである。  
 

 協力隊員の現地での生活費はJICAがみてくれるが、受入先は政府の公的機関。そこでの活動はすべて自分でこなさなければならない。出発前にJICAの研修場で65日間の現地語の特訓を受けるが、それでも当初は言葉で苦労する。業務のマニュアルはなにもない。現地の人々は誇りが高い。彼らの自尊心を傷つけることなく自分の技能をどのように伝えればいいのか。価値観の違う相手にこちらの考えを理解してもらうにはどうすれば良いのか。なによりも、現地の人々と信頼関係を結べるかどうかが業務の成否をわける。試行錯誤の毎日だ。すべて自分で考え、汗をぬぐいながら自分で打開策を見つける以外ない。そんな苦労を重ねるうちに、若者たちはぐんぐん成長する。2年の任期を終えた隊員たちは、自立心旺盛なたくましい人間となって帰ってくる。青年海外協力隊の目的は開発途上国での草の根協力にあるが、同時に日本の青年たちの国際的な鍛錬の場ともなっているのである。

 

 陰湿なイジメ、引きこもりや自殺など、日本の次代を担うべき若者をとりまく内向きな社会状況が気にかかる昨今、単身異国で鍛えられた活力にあふれる青年たちの存在は心強い。企業活動のみならず、自治体や教育の分野でも、国際社会との接触や競争を避けて通れない時代になった。決められたことを仲間内だけでやっていればすむ時代ではなくなった。価値観が異なる人々との接触のなかで、みずから打開策を考え、手をうっていける人材の存否が生死をわける。協力隊で鍛錬された人々が持つ異質なものにたいする寛大な心や、前向きで自立心旺盛な資質が今ほど必要とされる時はない。内外激動の現代にあって、企業にも自治体にも、青年海外協力隊を体験した人材の活用をお勧めしたい所以である。
   

( 紀伊民報 2009.5.3 「故郷への便り」より )

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