筆者: 眞砂 睦
若者の内向き志向が日本の衰退を招いていると指摘されている。世界は国境なき競争にさらされているというのに、海外での体験を避けようとする若者が増えていると言うのである。しかし一方で、平成22年内閣府が行った「労働者の国際移動に関する世論調査」によると、20歳代の男女の40%が「外国での就労に関心がある、もしくはどちらかといえば関心がある」と答えている。この数字をみると、若者は必ずしも内向きではなく、環境が整えば海外との接触もいとわない人々も多いとも読み取れる。本当は、彼らが海外にうって出やすい環境が整っていないことの方が問題ではないのか。
世界の人々とわたりあえる人材の育成は待ったなしだ。学校教育だけでは解決が難しい。なにより若いうちに実際に海外体験を積ませることが決定的に重要だ。ことの緊急性から考えて、先ずは今ある制度を整備・活用して突破口とするのが現実的であろう。
そこで私は、JICAの青年海外協力隊制度の活用を提案したい。JICAは毎年20歳から39歳までの青年1300人ほどを2年間の任期で、アジア・アフリカ・中南米を中心に、農林水産・各種教育・保健衛生・行政・スポーツなどの分野で200近い職種のボランテイアを派遣している。草の根の技能伝授が目的だが、実は派遣される隊員自身の訓練になっていることが大事な点だ。隊員は単身乗り込んだ異国で、慣れない外国語を使って受入先との業務内容の調整や、考え方の違う相手を説得しながら技能を伝えなければならない。若者の人間力を鍛えるのにこれ以上の訓練の場はない。つまり、青年協力隊は草の根技術協力のみならず、若者を海外で訓練するかけがえのない制度なのだ。
そこで私は、この協力隊の派遣枠を大幅に拡大して、若者の人づくりにもっと活用すべきだと考えるのである。現在JICAは年間約180億円を協力隊事業に投入しているが、国際的に通用する人材を育成するためなら、それを5倍に増やしても安いものだ。
問題は帰国後の隊員の働き場所の確保だ。国際訓練にはコストと時間がかる。従って、「現職参加」をもっと増やす一方で、「国際貢献枠」として一定の帰国隊員を雇用することを企業や役所に義務付けてはどうか。利点はあるし、新卒採用に固執しなければ、たくましい若者を確保できる。こうした人材は国の貴重な資産なのだ。
引きこもっていく日本に活をいれるために、国費をもって海外で鍛えられた若者たちをもっと活用すべきである。今そこにある宝物を見過ごして、日本を「引きこもり国家」にしてはならない。