2014年のワールドカップ(W杯)はブラジル12都市のスタジアムで行われます。私はそのひとつの都市であるナタル(リオグランジドノルテ州)に在住しており、勤務先がスタジアムに隣接する行政センター内にあります。
現在の老朽化したサッカー場を壊して新設する計画だそうですが、その気配は今のところまったくありません。開催まで残り3年。間に合うだろうかと心配していたところ、先日の全国紙フォリャ・デ・サンパウロで12のスタジアムを診断していました。
見通しが「Bom(良好)」とされたのはベロオリゾンテとサルバドールのスタジアムのみ。リオデジャネイロ、レシフェ、ポルトアレグレなど6つのスタジアムは「razoável (普通)」で、ブラジリアとクリチーバが「preocupante(気がかり)」。そして「grave(重症)」との診断を下されたのがサンパウロ、及びナタルでした。
ナタルのスタジアムは4万5,000人収容で建設予算は4億レアル(日本円で約20億円)と明かされています。負担するのは州政府とブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)。ただし、第一回目の入札会で関心を表明した企業はゼロだったそうです。
それでもリオグランジドノルテ州政府はW杯開催のための特別庁をわざわざ設置して準備を進めているようです。しかし州政府の財政状況は火の車。恵まれない家庭の子供たちにミルクを無料配布するプログラムさえ業者への支払いが滞り最近ストップされていました。また、仮に新設することが出来たとしても、閑古鳥が鳴いているいまのスタジアムを見ればW杯後の運営が懸念されます。
同じく重症認定を受けたサンパウロはなんといってもブラジル経済の中心地であり、同じレベルで見ることは出来ません。果たして80万人に過ぎない都市ナタルに特効薬はあるのでしょうか?
サッカーは国技。ブラジルでの開催は1950年以来。何を犠牲にしても開催を熱望する市民も多いのは理解できますが、ナタルのスタジアム名は地元名物の砂丘にちなんで「砂丘アリーナ」。それを聞くと、砂上の楼閣という言葉が思い浮かびます。この言葉、ご存知の通り、“実現不可能なことのたとえ”でもあります。
追伸:サッカーの元ブラジル代表ロナウド選手が引退を発表しました。34歳と小生と同年代で、私が以前ブラジルで暮らした時期(1998年~2006年)に開催されたいずれのW杯でもブラジル代表のエースとして活躍し、いつも応援してきただけに思いもひとしおでした。
引退会見に息子2人(一人は最近認知した日系女性との間の子供)を同席させ、「引退を決意したときは病院の集中治療室にはいっているようだった。引退、これは最初に死だ」と言った言葉の選びの見事さ。そしてフェルナンド・エンリッケ・カルドゾ元大統領との携帯メールのやり取りで、元大統領から「わたしと同じ定年者」と呼びかけられたのに対し、「これからは編み物をする時間を作って、ポーカーで稼ぎましょう」と返答した、その軽妙さ。ピッチ内外で最後の最後までロナウドには感服させられました。
(筆者 小林大祐 2011.2.15)
(筆者プロフィール)
小林 大祐
1998年早大社会科学部卒。
ブラジル邦字新聞社「ニッケイ新聞」元記者。
現在建築コンサルタント会社勤務、ブラジル北東部駐在、
JICA技術協力プロジェクト従事。