日系4世の就労に寄せて

 

                                眞砂 睦

                                  

法務省は日系4世に最長5年間の就労資格を与える新たな受け入れ制度を公表した。
「日本で働くことを通して、日本語や日本文化を体験してもらい、帰国後は日本と現地日系社会との架け橋になってもらう」ことが目的だとしている。
要件は18歳~30歳の日系4世の若者で、一定の日本語能力を有すること。日系人が多いブラジルやペルーからの募集を想定しているようだが、日本での生活を保障する企業や個人の引受者が必要で、若者たちにはその引受者の指示に従って働いてもらうという点がポイントだ。
1990年に施行された「改正入国管理法」によって、すでに3世までの日系人には最長10年間の就労が認められており(一定の要件を満たせば永住も可能)、バブル期にはブラジルからだけでも30万人をこす「デカセギ」が働いていた。しかし、リーマンショック後の2009年、解雇された日系人への対応に手を焼いた政府は「再入国しないこと」を条件に、国費で帰国費用の一部を負担して数万人の「デカセギ」を母国に追い返した。この措置は「手切れ金で失業者を国外追放した」と内外の批判を浴び、同時に景気の調整弁として解雇された多くの日系人を「日本嫌い」に追いやってしまった。
それが一転、今度は当面の人手不足の穴埋めにしようと4世に目をつけた。この募集には、人手不足に音をあげる企業からの突き上げで、自民党の1億総活躍推進本部が日系4世まで就労資格を拡大するよう提案していた背景がある。つまり、この制度は建前はともかく実態は「4世のデカセギ版」に他ならない。
 4世への就労許可拡大自体は歓迎すべきことだ。しかし日本の外国人受け入れ政策は建前と実態の乖離(かいり)が大きい。例えば、一部の受け入れ企業のルール違反によって「研修を隠れみのにした奴隷労働」と批判されている「技能実習生」制度や、「留学に名を借りた労働者」とやゆされる外国人留学生の就労問題などである。
今般の4世の受け入れも、もっぱら人手不足の応急処置として「3世の次は4世」という発想で実施されるとすれば問題が残る。
 せっかくの新制度も、彼らを劣悪な労働条件で景気の調整弁として利用するだけに終わるようだと「日本との架け橋」どころか、前途ある日系4世の若者たちを再び「日本嫌い」に追い込んでしまうだろう。
 「日本社会との架け橋となってもらう」ことを目的とする以上、その目的達成のためには、政府が公正で透明な労働環境を整備し、水漏れのないモニターを実施することが必須の条件である。

 

(2018年7月「紀伊民報」転載)  (了)                          

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