眞砂 睦
昨年、「ブラジル和歌山県人会」に、初めて2世の会長が誕生した。谷口ジョゼー眞一郎氏、73歳。サンパウロ州生まれの方だ。土木技師で現役時代はサンパウロ州上下水公社に勤務、夜は国立高等技術学校の建築部で30年間にわたって教壇に立たれた。
退職後、それまで仕事では使う機会がなかった日本語を学びなおしたいと一念発起、日系文化協会や日本語学校などで15年間勉強を続けられた。今では会話はもちろん、読み書きも完璧。「努力をすれば年をとっても覚えることができます」と笑っておられる。
谷口さんが県人会活動に目を向けるきっかけとなったのは、1984年にJICAの水処理技術研修生として訪日したこと。その機会に橋本市の親戚と会うことができ、先祖の墓参りも果たして、自分のルーツは日本だという実感を抱いて帰国したそうだ。
研修を終えて帰国直後、母親から「亡き父親は最後まで県人会活動に尽力したので、おまえも父親に代わって頑張りなさい」とさとされ、心が決まった。
以来、県人会活動に参加するようになり、持ち前の明るさと熱意で仲間の信頼を得て昨年、会長の任を託された。戦後移住者が多い和歌山県人会とはいえ、1世の高齢化にともなって次世代へのバトンタッチが懸案だったが、立派な2世の後継者に恵まれて順調に世代交代が実現した。
谷口さんが会長になってすぐ実行したのは、毎月の理事会の議事録を作成すること、会報を作って全会員に配ることだった。会報はポルトガル語が読めない1世への配慮から、会長自ら翻訳した日本語も添付している。遠く3か所の支部に200人を超す会員が散らばっていることから、会の運営をできるだけ透明化したい、会員の間で情報を共有して意見交換を活発にしたい、という谷口さんのお考えから始まった施策だ。
私たち和歌山県中南米交流協会紀南支部は、お互いの活動を会報で紹介しあっている。遠く離れていても、会報を通してお互いが隣町の町内会同士のように身近に感じるようになった。
会長と連絡を取り合っているなかで話題になるのは次の時代を託す若手の発掘だ。日本との交流窓口という任務を負っている県人会の幹部は、日本語で意思疎通ができる人物が望ましいが、会員は2世・3世が多くを占めているのでハードルは高い。それでも県人会活動に興味をもってもらうことが先決と、若手を集めて青年理事会を発足させ、機会を作って活動をともにしておられる。
「若手の育成は簡単ではありませんが努力しなければ」という谷口さんは、責任感の強い律儀な昔気質の日本人のようだ。いつだったか「私は日本人の心を大事にしています」と聞いた言葉が今も私の胸に残っている。(了) (2016.6.12掲載)