エリート学歴コンビの政権は何を…

 

筆者プロフィール

小林 大祐 
1998年早大社会科学部卒。
ブラジル邦字新聞社「ニッケイ新聞」元記者。
現在建築コンサルタント会社勤務、ブラジル北東部駐在、
JICA技術協力プロジェクト従事。

 

 


 

 イランからブラジルに移住してきた人たち――。先日テレビで放映されていたドキュメンタリー映画が興味深いものでした。移住前は難民キャンプなどを転々として暮らしていた彼らが穏やかな生活を取り戻し、異なる言葉と文化を受容する困難と葛藤を抱えながら日常生活を淡々と送る様子。途中から見てしまい移住の背景は正確につかめなかったのですが、ブラジルはルーラ前大統領時代、イランとの協調・友好関係を深め中近東での存在感を高めていた経緯があります。その一環の出来事ではないかと思いました。

 前大統領の「外交路線」は引退後も一貫しています。さきに来伯したオバマ米大統領の歓迎食事会。歴代大統領が顔を見せた中で前大統領だけは出席を拒否しました。一方1-2日違いで開催されたブラジル・イスラム教徒連盟の食事会の方には中近東風のベールをかぶって笑顔で出席しました。
 政治的な発言は大統領職を退いた後は避けていた節がありますが、現政権の大臣の面々がオバマ米大統領に面会する直前に米人警備員からボディチェックを受けたことに対しては怒りを露にしていました。前大統領は以前にも「アメリカの空港で靴を脱ぐようなブラジルの外交官はすぐに辞めさせる」と発言

 さて、前大統領が市井の人に戻り、すなわちヂウマ政権が発足して4月10日で100日が経過。「微調整を繰り返しつつも前政権の政策・路線を堅調に継続」していると総括されているものの、対米外交に関しては前大統領とは明確な違いを打ち出しています。
 加えて、タイミング良く(仕組まれていると言いますか)、オバマ米大統領のブラジル訪問があったり、公演に来た世界的スターである歌手シャキーラやロックバンドU2がそれぞれ社会奉仕活動でも有名なことから面談に応じたりと、国内外の人々に強く印象に残る形で定期的に露出できた100日間でもありました。

 先月末、ルーラ前大統領を支えていたジョゼ・アレンカール副大統領が死去しました。前大統領も前副大統領も共に学歴はなく裸一貫で自分の道を開いて成功した人物。そのため人望が厚く国民人気も高い点が共通します。一方ジウマ大統領は裕福な家庭育ちで高学歴の経済学者で、現副大統領のテメル氏は最高学府サンパウロ大学法学部卒。政権トップ2人のプロフィールは前後で実に対照的と言えます。「在野出身コンビ」から一転して「エリート学歴コンビ」に引き継がれたブラジルは今後どう生まれ変わっていくでしょうか?

(2011年4月10日 リオグランジドノルテ州ナタル市にて ) 

 

「オブリガード、サンキュ!」 オバマ


  ブラジルにやって来たアメリカのオバマ大統領。一人のミーハー的なファンの目から見て、純粋に格好良かったです。20日にリオ市立劇場で行われた演説。ノーネクタイでさっそうと壇上に現れ、軽くステップを踏んでマイクのある台に上ります。2,300人の観衆の大声援に「オブリガード、サンキュ」と2,3度繰り返し大きく手を振って対応。注目の出だしは「オイ! リオデジャネイロ」でした。ポルトガル語の「オイ」は親しい人へのあいさつです。ここでじっくり間を取ると、続けて「アロー! シダーデ・マラヴィリョザ」。リオデジャネイロの別名であるシダーデ・マラヴィリョザ(すばらしき都市)の名で呼びかけ、さらに観衆を引き付けます。再び一息おいて今度は「ボア・タルデ、トード・ポヴォ・ブラジレイロ(こんにちは、ブラジルの皆さん)」――。この3段構えの切り出し、そして観衆を引き込む絶妙な間の取り方は実に見事でした。あたかも目前で見たかのように熱く語っていますが、目にしたのはニュース映像のみです。オバマ流演説の様式美とも言える映像をユーチューブで繰り返し見てしまいました。

  本来この演説はリオ市立劇場前のシネランジア広場で一般大衆向けに演説を行われる予定でした。ベルリン、カイロに続く外国での一般向け演説は多くのブラジル市民の目に直接焼き付けられるはずだったのですが、リビア情勢と天気が考慮され、劇場内に舞台を移すことになりました。日曜日だったこともあり、私もできればリオまで飛んで歴史的な場面に立ち会ってみようかとも思っていたのですが、日本で大災害が発生し、もちろんそれどころではありませんでした。

  オバマ大統領は夫人と娘二人も一緒に連れてきていました。アフリカ系の国とも言える一面も持つブラジル。その社会と文化に関心があったのかもしれません。実際、サンバやカポエイラ(アフリカルーツの格闘技)も鑑賞していました。「ブラジルにも黒人がいるのか?」と言ったとされるブッシュ前大統領とはまったく違います。一家はブラジル映画「シティ・オブ・ゴッド」で有名になったファヴェラ(貧民街)にも足を運びました。そこで待ち受けていた青少年たちが「Yes, we ALSO can」という横断幕を掲げていたのが個人的にとても印象的でした。今回のブラジル訪問はアメリカ製品のブラジルへの輸出販売の促進という実利的な色合いが濃く、またリビアと日本の情勢が重大局面を迎えている最中ということもあり、国内外のメディアはあまり好意的に報じていませんでした。しかし、「Yes, we ALSO can」はとても良いフレーズです。少なくともファヴェラの青少年たちには大きな希望を与えてくれた訪問だったと思っています。
(リオグランジドノルテ州ナタル市にて 2011年3月20日 小林大祐)

 
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