巨星墜つ

 アップルの創業者スティーブ・ジョブズさんが先日急逝され世界に衝撃を与えましたが、ブラジル日系社会でも最近、2人の偉大な人物が相次いで他界されました。上野アントニオ義雄さん(享年89歳)=写真左=と市村進さん(同93歳)=写真右=です。「巨星墜つ」。訃報に接したとき、その言葉以外見当たりませんでした。

 上野さんは長年連邦下院議員を務められ、連続8回当選を果たしています。ブラジルの歴代政治家の中でもこの記録を上回る人は2名のみという偉業です。日本とブラジルの交流促進の立役者であり、ブラジル紙の訃報記事の見出しには「"O nikkei mais próximo da Casa Imperial"-日本の皇室に一番近い日系人」との表現まで見られました。また、地元日系紙の報道によると、日本政府からは勲二等瑞宝章(1978)、勲二等旭日章(1988)、勲一等瑞宝章(1998)をそれぞれ受章しているそうです。

 一方の市村さんはブラジル屈指の農園主。ラミー栽培で成功され「ラミー王」の異名を持っていた方です。最盛期には49もの農園を所有し、数千とも1万とも言われる人員を雇用していたと伝えられています。さらに地元の市長を5回にわたって歴任し、最後に当選した2009年にはすでに90歳でした。その際に申告した資産総額が同年選挙に出馬した全国の立候補者の中でも群を抜いていたこともあり、「史上最高齢の市長誕生」のニュースは大きな話題になりました。

 最後に個人的な話で恐縮ですが、今年の8月だったでしょうか、エレベーターの中で上野さんと偶然一緒になりました。その場所とはサンパウロ市の東洋人街リベルダーデにあるニッケイパラセ。上野さんが経営され、「日系人による日系人のためのホテル」を社是としていたホテルです。上野さんは晩年、療養されながらそこにお住まいのようでしたが、もうすでにかなり衰弱されている様子がうかがえました。
エレベーターの中には私のほかにも日本人からの青年旅行者が居合わせており、上野さんは私と青年に対し「日本はどちらからですか」と尋ねられました。青年は見ず知らずの高齢者からいきなり話しかけられたためか、あるいは上野さんの声が細く聞きづらかったのか、無言で降りていきました。

 ジョブズさんも確かに偉大な方です。しかし時期を同じくしてこの世を去られた上野さんや市村さんのような存在も日本で追悼されなければいけない、そう考えて今回のコラムに御二人の訃報を記させていただきました。]

リオグランジドノルテ州ナタル市にて 2011年10月9日 小林大祐

 
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