ブラジルの選挙戦術に愉快な手

 

 

政治や選挙というのはこんなに楽しいものなのか。そう思うほど、各メディアでさまざまな話題を提供してくれています。美談、醜聞、風刺、批判の数々……。でも、そんな楽しいひと時ももう終わりです。投票日が日曜日(10月3日)に迫っております。ゴールデンタイムに毎晩放映されていた各政党・各候補者のアピールタイムも本日9月29日で終了。とりわけ持ち時間の少ない弱小政党や無数の泡沫候補(当地では“エキゾチック候補”と呼称)のPR は良い意味でも悪い意味でも相当ユニークで面白かっただけに残念でなりません。

 

ブラジル初の女性大統領が誕生する可能性が濃厚であるなど話題の多い今回の選挙ですが、中でも口の端に上っているのがサンパウロ州から連邦下院議員に立候補している“チリリッカ”という名の候補者です。本業はピエロ。「ボク、愚か者。投票してくれなかったら死んじゃうよー」「でも連邦下院議員っていったい何する人の? 実は知らないんだよー」などと声色を変えながらピースサインで踊っている姿が毎晩放映されていました。PR映像は何パターンもあり、実の両親までピエロの格好で登場させてコメディをやらせていました。また政策提案も「サーカス業界の活性化」「(彼の出身地である)北東部出身者への偏見をなくす」など到底本気で政治家を目指しているとは思えません。そんなチリリッカですが、最近の調査ではサンパウロ州内の有権者の3%=約100万人が彼に投票するのではというほど絶大な支持を集めています。

 

なぜ、「愚かな」候補者が人気なのでしょうか? ブラジル政治は、公約破りが常套のうそつき政治家が蔓延する「愚か者」の集まりであるという「現状」を踏まえ、「それならば本物のピエロを政界に送り込んでみよう」という“アンチテーゼ票”であるという見方もあります。しかし実際は仮に100万票を獲得するとその得票数のおかげで、彼の所属する弱小政党の候補者5、6人が当選する計算になるそうです。その6人の中にはいわくつきの候補者も含まれているようで、「チリリッカに投票しても政治へのアンチテーゼ票にはならない。だから真面目に考えて投票しよう」という論調をよく目にします。

 

論争の的のチリリッカの存在はたいへん有意義です。政界が「愚か者」の集まりならそれを選ぶ国民も「愚か者」、すなわち、有権者は賢い投票を心がけなければいけない、ということを教えてくれているからです。

 

【筆者プロフィール】 小林 大祐 

1998年早大社会科学部卒。

ブラジル邦字新聞社「ニッケイ新聞」元記者。

現在建築コンサルタント会社勤務、ブラジル北東部駐在、

JICA技術協力プロジェクト従事。

 

 
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